2025/05/27 15:54

“畑の鼓動”をグラスで甦らせる、モンソム流サマーワインの愉しみ方


クール便で届いた自然派ワインは、言わば「深呼吸する直前」の状態です。
コルクを抜き、ガラスを選び、空気と温度のバランスを整える――このわずかな所作によって、葡萄畑の朝露や醸造所の木樽の香りがグラスの中で目を覚まします。
後編では、モンソムが自社ワインをテイスティングしながら蓄えてきた“体験価値を最大化するメソッド”を、具体例を交えながらご紹介します。

1.グラスで変わる香りと質感――3本のワインで体感する

◆ Château Bonnet〈Crémant de Bourgogne Brut Rosé〉 × ティンパニ型

パールピンクの泡をティンパニ形グラスに注ぐと、苺やグレープフルーツの香りがゆるやかに立ち、ブリオッシュの甘い余韻がふわりと広がります。底が丸い器形は泡の勢いを抑え、繊細な果実味をくっきり際立たせる“静かな舞台”。塩気の強いアペロにも、苺のデザートにも寄り添います。

◆ Domaine Simon Gaudet〈Bourgogne Aligoté 2022〉 × チューリップ型

ライムの硬質な酸と白桃の甘みの二重奏を響かせたいなら、飲み口 5 cm 前後のチューリップ型。石灰土壌のミネラルがきりりと伸び、温度が 1 ℃上がるごとに蜂蜜や花の蜜が顔を出す――塩焼きにした鰆の脂を洗い流し、次のひと口を誘う清流のような余韻。

◆ Vignoble de Sommere〈Bourgogne Pinot Noir"Aux Concises" 2022〉 × ユニバーサルグラス

若いピノのシルキーなタンニンは、大ぶりボウルよりも汎用ユニバーサル型で受け止める方が輪郭を保ちます。クランベリー、スミレ、シナモンが凝縮し、舌の中央にまっすぐ着地。温度とともに赤土や杉のニュアンスがゆっくり現れ、皿の上の初鰹に奥行きを与えます。

MonSomme’s Hint

香りがどの高さで止まるか――鼻まで 5 cm で凝縮させるのか、10 cm 上で漂わせるのか。それだけで同じワインがまったく違う表情を見せます。


2.“優しい呼吸”で香りをほぐす――静かな移し替えのすすめ

長旅を終えたばかりのワインは、ときに香りが硬く閉じていることがあります。
モンソムが推奨するのは、勢いよくボトルを振るのではなく、静かな移し替えでゆっくり息を整えてあげること。

  1. ボトルをテーブルに立て、底をわずかに傾けながら細い流線でデキャンタ(または清潔なピッチャー)へ注ぐ。

  2. そのまま 10 分休ませる。香りは閉じた扉をノックする程度の酸素で十分に開きます。

  3. グラスに注ぎ、温度変化とともに移ろう表情を楽しむ。ボトルへ戻す必要はありません。

勢いで空気を叩き込むと、果実味がほどけ過ぎ、ミネラルが鈍ります。


3.  開栓後72時間をキープする“冷静と情熱の保存術”

3-1.まず“温度ストッパー”をかける

ワインは温度が 10 ℃ 下がるたびに酸化速度が半分近く遅くなると言われます。開栓直後その日に飲まない分はコルク(またはスクリューキャップ)を戻し、即座に冷蔵庫へ
白も赤も泡も区別なく 4 ℃の低温帯に入れる――これが最初の防御壁です。赤ワインを再度飲むときは、グラス一杯分だけ注いで 15 分ほど室温に置けば“ちょうど良い小春日和”の温度に戻ります。

3-2.縦置きで“香りの池”を浅く保つ

ボトルは必ず 縦置き。横にするとワインがコルク全体を湿らせ、香りの成分が緩やかに逃げやすくなります。縦に立てておけば、ワインが空気と接する面積(ヘッドスペース表面)が最小化され、アロマの蒸散を抑制。

3-3.目安は──白・ロゼ 72 h / 赤 48 h / 泡 24 h

スタイル冷蔵保存目安味わいの変化サイン次の楽しみ方
軽白・ロゼ・オレンジ  3 日      柑橘→ハチミツ香に移行 3 日目は冷製パスタのソースに少量加える
ライト〜ミディアム赤 2 日     果実香がドライフルーツ寄りに           2 日目は 14 ℃でチーズトーストと
スパークリング/ペティアン 24 h     泡が細かさ→滑らかさへ微発泡ヴェルヴェットとして前菜に

Point:香りが丸くなった 2 日目・3 日目は、旨味の強い料理(味噌・発酵食品・ハーブ)と合わせると“第二のピーク”を迎えやすい。

3-4.冷蔵庫内で守る3つのマナー

  1. 匂い移りを避ける:魚介やハーブの近くには置かない。

  2. 振動を遠ざける:ドアポケットは開閉振動が多く、香り分子が崩れやすい。棚中央が安全地帯。

  3. 光を遮る:ガラス扉のワインセラーでない限り、新聞紙やボトルバッグで“簡易日除け”を。紫外線は香りを加速劣化させます。

3-5.「ほんの少し残った」ワインの賢い使い道

  • 白ワイン:レモン代わりに帆立のソテーへ。

  • 赤ワイン:1/4 カップを煮込みハンバーグのソースに。

  • 泡:翌朝、フルーツとミントを入れた即席サングリアで目覚めを爽快に。

こうして最後の一滴まで大切に味わえば、造り手の物語は 72 時間を超えて食卓に寄り添い続けます。モンソムは「開けたあと」を大切にすることで、ワインのある暮らしをもっと豊かにしたいと願っています。


夏でも造り手の体温を感じる一杯を

クール便で運び、適温でサーブし、静かに空気と触れ合わせ、丁寧に保存する。
その4つのステップは、畑からグラスまで続く一本の糸を切らさず、造り手の体温をそのまま手渡すための儀式です。

モンソムは、この儀式を煩わしさではなく“歓びの時間”として提案します。
どうぞグラスの向こうに、ブルゴーニュやマコンの風を感じながら、涼やかな初夏の夜をお楽しみください。