2025/06/16 15:45
雨粒が紫陽花を濡らすころ
湿り気を帯びた空気のなかで旬を迎える魚や野菜は、梅雨のヴェールをまといながらも瑞々しい甘みを秘めています。
そこへ合わせたいのが、澄んだ酸と穏やかな果実味を備えた自然派ワイン。今月は清流の鮎や脂が乗り始めた青魚、そして新ごぼうや賀茂茄子など“初夏を告げる味覚”と相思相愛の6本を選びました。
1|鮎の塩焼き × Bourgogne Côtes-d’Or “Les Lameroses” 2022
ドメーヌ ジャンソン・パリゴ/ブルゴーニュ コートドール“レ・ラムローズ”2022 白ワイン
若鮎を炭火で焼くと、その香りは森の新芽のように青く澄んでいます。
石灰質土壌から生まれたシャルドネ「ラ・ラメローズ」は、レモンピールと野花の蜜を思わせるアロマに、涼やかな酸とピュアなミネラル。8 ℃で合わせると、鮎のほろ苦い肝をやさしく包み込み、アーモンドのような後味が炭火の燻香と重なります。雨に濡れた苔の匂いまでも映しとる清冽な余韻。
2|鯵のたたき × Pinot Noir “Aux Consises” 2022
ヴィニョーブル ド ソメレ/ピノ ノワール“オーコンシーズ”2022 赤ワイン
脂の乗り始めた鯵を細かく叩き、生姜とミョウガを散らす。そこへ注ぐのはマコンのピノ「オー・コンシーズ」。ざくざくした赤果実に、タイムや紫蘇を思わせる青いニュアンスが潜みます。12 ℃の“冷やし赤”で供すれば、細かなタンニンが鯵の鉄分を包み込み、ミョウガの辛味とハーブ香がぴたりと重なる。雨の匂いを吸い込む海風がグラスの中に吹き込むかのよう。
3|新ごぼうと若鶏の山椒煮 × Maranges “Sur le Bois” 2022
ドメーヌ ボナルド/マランジュ“シュル・ル・ボワ”2022 赤ワイン
瑞々しい新ごぼうと若鶏を薄口醤油で炊き、実山椒を一粒。
合わせるのはマランジュ村の斜面「シュル・ル・ボワ」から採れるピノ・ノワール。ドライチェリーとローズヒップ、そこに杉の葉と白胡椒。14 ℃で注ぐと、ごぼうの土っぽさがバラ香に昇華し、山椒の清涼感がワインの酸に溶け込みます。雨音がゆっくりリズムを刻む夜、土鍋の湯気とピノの香りが静かに重なる瞬間。
4|穴子の天ぷら × Crémant de Bourgogne N.V.
シャトー ボネ/クレマン ド ブルゴーニュ NV スパークリングワイン
衣がほろりと崩れる穴子の天ぷらに、ドザージュ控えめのクレマンを合わせると、細かな泡が油をさらりと洗い流し、レモンや白桃のアロマが穴子の甘い脂を持ち上げます。塩をひと粒添えれば、ワインのミネラルが線香花火のように弾け、雨粒が葉を滑り落ちる音と共鳴する清涼な後味。
5|賀茂茄子の味噌田楽 × Bourgogne “Cuvée Antique” 2022
ドメーヌ シモン・ゴーデ/ブルゴーニュ”キュヴェ・アンティーク”2022 赤ワイン
肉厚の賀茂茄子に甘めの赤味噌。ピノ主体の“キュヴェ・アンティーク”は、熟したラズベリーと黒胡椒、そして仄かなスモーク。15 ℃で合わせると、茄子のとろりとした果肉にタンニンが絹の輪郭を与え、味噌の甘塩を酸が引き伸ばす。雨の夜、更けていく静けさに寄り添う“しっとりとした旨味”。
余韻にひと言
梅雨の空気は香りを閉じ込め、ワインの酸を静かに研ぎ澄ませます。
澄んだ酸と穏やかな果実味を持つフランス自然派ワインは、初夏の素材が秘める“静かな甘み”と寄り添い、雨音を BGM に変えてしまう。
モンソムでは、造り手の哲学が透けて見える少量生産のボトルだけを輸入しています。しとしと雨の夜、グラスの中に小さな晴れ間を咲かせてみませんか。
▶ 6月のペアリング用自然派ワインを探す(monsomme.jp)
次回は真夏の7月。ハーブ香る鰯やトマトの甘味に寄り添う軽やかなボトルをご紹介します。どうぞお楽しみに。