2025/08/04 16:25

“ひとつの食材、ふたつの顔” が導く自然派ワインの愉しみ

蜩(ひぐらし)が鳴き、入道雲がそびえる盛夏。
熱気をはらんだ夕立のあと、台所には肉厚の鰻や朝摘み枝豆、甘い香りをまとった白桃が並びます。火照った身体を潤すなら、澄んだ酸と繊細な果実味を湛える自然派ワインがとびきりの清涼剤。今月も〈monsomme.jp〉のセラーから6本を選び、「同じ素材を洋と和、ふたつの顔で味わう」 という視点で組み合わせました。真夏の夜をゆるやかな劇場へ変える、小さなグラスの物語をどうぞ。
ご自宅のキッチンでレストランの余韻を再現する、小さなヒントになりますように。

鰻(うなぎ)──とろける脂と香ばしい皮
洋の顔│鰻の赤ワイン煮込み ×  Beaune “La Blanchisserie” 2021
市販の蒲焼き用の鰻をタレと赤ワインでコトコト煮込むだけ。
ベリーと柔らかな酸がある「ラ・ブランシスリー」。赤ワイン煮込みの風味と脂をしなやかな酸が引き締め、やさしい樽香が鰻のコクと共鳴。「蒲焼きとは違った、こっくりなのに重くない」——真夏の夜にぴったりのエレガントな赤ワイン煮込みが完成します。
和の顔│鰻の蒲焼き × Bourgogne Pinot Noir “Le Clos” 2022
じんわり染みた甘辛ダレに“ル・クロ”のピノを 16 ℃。
少しジャミーで凝縮感のある果実味、樽のニュアンスが炭火の燻香に寄り添います。タンニンは極細で、鰻の脂を包み込みながら喉越しは涼やか。七味や山椒をひと振りしても香味を邪魔しません。

夏野菜──涼を招く緑のアンサンブル
洋の顔│胡瓜たっぷりギリシャ風ツァジキ × Crémant de Bourgogne Brut N.V.
細かく刻んだ胡瓜をヨーグルトとミント、レモンで合わせたツァジキは、口に運ぶだけで真昼の熱気がすっと引く“食べる涼風”。その魅力は万能性――野菜スティックのディップはもちろん焼いたお肉にも。ライムやグレープフルーツのアロマを抱くアリゴテを 8 ℃ で合わせると、柑橘の酸がヨーグルトの乳酸とレイヤーをなし、石灰質ミネラルが胡瓜の青味をきゅっと際立たせる。きらめく冷涼感と塩味のバランスが、ツァジキの多彩な“顔”を最後までみずみずしく保つ一杯です。
和の顔│夏野菜の冷やし鉢(なす・おくら・トマト・茗荷の出汁浸し) × Bourgogne Aligote 2022
揚げびたしの茄子、さっと湯がいたオクラ、湯むきトマトを冷たい一番出汁に沈め、叩き胡瓜と茗荷を散らす涼味。
柑橘の酸と石灰質ミネラルを抱く若いアリゴテを 7 ℃ で合わせれば、出汁の旨味を透過光のように照らし、茗荷の爽快な香りをより澄ませます。夕立あとに吹く涼風そのものの一杯。

白桃──陽光を纏う柔らかな果肉
洋の顔│白桃とフレッシュチーズのカプレーゼ × Beaujolais-Villages Chat’au Bonnet Rosé 2023
ジューシーな白桃と生ハム、フレッシュチーズ。そこへ淡いサーモンピンクのロゼを12 ℃で。
野イチゴの甘酸が桃の蜜を引き締め、ハーブのような爽やかな風味が生ハムの塩気と重なって、皿全体を爽やかに保ちます。真夏の夕暮れを薄桃色に染める一杯。
和の顔│白桃の甘酒ジュレ × Bourgogne Hautes Côtes de Beaune ≪En Cheignot≫ 2022
甘酒を寒天でゆるく寄せ、白桃を忍ばせ、青柚子の皮をひと削り。
“アン・シェニョ”のシャルドネを 10 ℃ で注ぐと、洋梨のジューシーな香りが桃の蜜をふくらませ、白胡椒と火打石のミネラルが甘酒のコクを涼やかに整えます。口中で桃がほどけ、ジュレが溶け、ワインの酸が静かに波紋を描く——真夏の夜を鎮める和風デザートと凛とした白の競演です。

夏の食事に自然派ワインという“清涼剤”を
夏の旬材は太陽と水のリズムを宿し、調理法次第で甘さ、酸味、香ばしさが自由に姿を変えます。
モンソムの自然派ワインは、澄んだ酸と穏やかな果実味、そして土地のミネラルを共通語に、料理の方向性に応じた多彩な対話を生み出します。蝉時雨が降り注ぐ夕暮れ、グラスの中に小さな清涼を咲かせてみませんか