2025/09/04 13:58
“ひとつの食材、ふたつの顔” が導く自然派ワインの愉しみ
夜風に虫の音が混じり、空には冴えわたる名月。夏の名残りと秋の訪れが交錯する九月は、食卓にもしっとりとした彩りを運んできます。市場に並ぶ秋刀魚、香り高いきのこ、そして瑞々しいいちじく。それぞれの旬材に寄り添うのは、土地のリズムをそのまま映す自然派ワイン。今月も〈monsomme.jp〉のセラーから厳選した一本を添え、「同じ素材を洋と和で楽しむ」 という視点でご提案します。秋の夜長に、食とワインの静かな対話をどうぞ。
秋刀魚(さんま)――苦みと脂に、秋の青さ
洋の顔|秋刀魚の香草パン粉焼き × Molland 2020
Domaine Bonnardot|白|熟したレモンピール/ナッツ/ミネラル
三枚おろしにした秋刀魚に、パン粉とパセリ、レモンゼストをまとわせてオーブンへ。香ばしさに熟成由来のナッツやハチミツを思わせるニュアンスを持つ Molland 2020 が絶妙に重なります。12 ℃ の少し高め温度で供すれば、香草パン粉の芳香とワインの奥行きが見事に調和し、秋刀魚の脂をしっとり包み込む仕上がりに。
和の顔|秋刀魚の塩焼き(すだち添え) × Bourgogne Pinot Noir “Le Clos” 2022
Vignoble de Sommere|赤|ラズベリー/白胡椒/繊細なタンニン
皮の香ばしさと肝のほろ苦さを湛えた秋刀魚の塩焼きには、13 ℃ の冷やしピノを。澄んだ赤果実の酸が肝の苦みをやさしく受け止め、白胡椒のニュアンスが炭火の香りと溶け合います。大根おろしとすだちでさらにキレが増し、秋夜の一皿を軽やかに仕上げます。
きのこ――土の香りが立つ、秋の主役
洋の顔|きのこの香草ソテー(タイム&バター) × Hautes Cotes de Beaune “Sur Evelle” 2022
Domaine Bonnardot|赤|ザクロ/ドライチェリー/やわらかなスパイス
舞茸・しめじ・エリンギ・椎茸をバターでじっくりソテーし、仕上げにタイムをぱらり。15 ℃ のボーヌは、赤果実の酸とスパイス香が森の恵みの旨味に深みを添え、パンと合わせれば秋らしい洋の食卓に。
和の顔|きのこの天ぷら盛り合わせ × Crémant de Bourgogne Brut N.V.
Château Bonnet|白泡|青リンゴ/レモンゼスト/切れ味ある泡
舞茸・椎茸・しめじ・平茸・えのき・エリンギなど多彩なきのこを軽い衣でさっと揚げ、すだちをひと搾り、藻塩や抹茶塩でいただく。細かな泡をもつクレマンは、油をさらりと流し、きのこの滋味をくっきり際立たせます。8 ℃ の冷たさが、秋の夜をいっそう清涼に。
いちじく――蜜と穏やかな酸、やわらかな秋の序章
洋の顔|いちじくのキャラメリゼ × Beaujolais Rosé 2023
Château Bonnet|ロゼ|野イチゴ/ルバーブ/柔らかな酸
縦半分に切ったいちじくをバターで軽く焼き、きび砂糖でキャラメル化。温かな甘香にロゼの野イチゴやルバーブの酸味が寄り添い、果実の蜜を引き締めながらバターのコクをやさしく整えます。12 ℃ の冷やしロゼで、デザートにも前菜にも変化する大人のひと皿に。
和の顔|いちじくの白和え(生クリーム風味) × Côte d’Or Blanc 2022
Jeanson & Parigot|白|洋梨/白胡椒/火打石ミネラル
水切り豆腐にすり白胡麻と少量の薄口醤油を合わせ、隠し味にほんの少しの生クリームを。柔らかないちじくを和えれば、和と洋が溶け合う優美な一皿に。10 ℃ のシャルドネは、洋梨の香りが果肉の甘さをふくらませ、白胡椒と石灰的ミネラルが胡麻とクリームのコクを涼やかに導きます。
結び――秋の入口に、自然派という“静かな灯り”を
九月は、夏の余韻と秋の気配が同居する季節。澄んだ酸と穏やかな果実味、土地のミネラルを湛えた自然派ワインは、その移ろいを食卓でやさしく翻訳してくれます。旬のひと皿にグラスを寄り添わせ、名月の夜をゆっくりと味わってください。